仏説譬喩経
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No.217
仏説譬喩経
大唐三蔵法師 義浄訳
如是我聞。一時薄伽梵室羅伐城 逝多林給孤独園。
- かくのごとく、われ聞けり。ひととき薄伽梵給孤独園於大衆中。告勝光王曰。大王。我今為王 略説譬喩。諸有生死味著過患。
- その時世尊、大衆の中に於て勝光王に告げて曰はく。大王、われ今王の為に、略して諸の生死に味著する過患有ることの譬喩を説かん。
王今諦聴。善思念之。乃往過去。於無量劫。
- 王今あきらかに聽きて、乃往無量劫の過去において善くこれを思念せよ。
時有一人。遊於曠野為悪象所逐。怖走無依。見一空井。傍有樹根。即尋根下。潜身井中。
- 時に一人有り。曠野に遊んで悪象の為に逐われ、怖れて走るに依るところ無し。一の空井の傍に樹根有るを見、即ち根下を尋ねて身を井中に潜む。
有黒白二鼠。互齧樹根。於井四辺有四毒蛇。欲螫其人。下有毒龍。心畏龍蛇恐樹根断。樹根蜂蜜。五滴堕口。樹揺蜂散。下螫斯人。野火復来。焼然此樹。
- 黒白の二鼠有り。互ひに樹根をかじる。井の四辺に四の毒蛇有り。其の人を螫(さ)さんと欲す。下に毒龍有り。心、龍蛇を畏れ樹根の断ぜらるるを恐る。樹根の蜂蜜、五滴を口に墮(おち)す。樹搖れれば蜂散じ、下のこの人を螫(さ)す。野火また來りて、此の樹を燒然す。
王曰。是人云何。受無量苦。貪彼少味。
- 王曰く。是の人いかんが無量の苦を受けながら彼の少味を貪るや。
爾時世尊告言。大王。曠野者喩於無明長夜曠遠。
- その時、世尊告げて言はく、大王よ、曠野は無明長夜の曠遠なることの喩なり。
言彼人者。喩於異生。象喩無常。井喩生死。険岸樹根喩命。黒白二鼠以喩昼夜。
- 言く、彼の人は異生の喩、象は無常の喩、井は生死の喩、險岸の樹根は命の喩、黒白二鼠を以て晝夜の喩とす。
齧樹根者。喩念念滅。其四毒蛇。喩於四大。蜜喩五欲。蜂喩邪思。火喩老病。毒竜喩死。
- 樹根を齧るとは念念滅の喩、その四の毒蛇は四大の喩、蜜は五欲の喩、蜂は邪思の喩、火は老病の喩、毒龍は死の喩なり。
是故大王。当知生老病死。甚可怖畏。常応思念。勿被五欲之所呑迫。
- 是の故に大王、まさに知るべし生老病死の甚だ怖畏すべきことを。常にまさに思念して、五欲の所に呑迫せらるるを被(こうむ)ることなかれ。
爾時世尊重説頌曰
- その時に世尊、重ねて頌を説ひて曰く、
- 曠野無明路 人走喩凡夫
- 曠野は無明の路、人の走るを凡夫に喩へ、
- 大象比無常 井喩生死岸
- 大象は無常に比し、井を生死の岸に喩ふ。
- 樹根喩於命 二鼠昼夜同
- 樹根は命に喩へ、二鼠は昼夜に同じく、
- 齧根念念衰 四蛇同四大
- 根を齧るは念念に衰ふこと、四蛇は四大に同じ。
- 蜜滴喩五欲 蜂螫比邪思
- 蜜の滴たるは五欲に喩、蜂の螫(さ)すを邪思に比す
- 火同於老病 毒竜方死苦
- 火は老病に同じく、毒龍はまさに死苦なり。
- 智者観斯事 象可厭生津
- 智者はこの事を観じて、象に生津を厭うべし。
- 五欲心無著 方名解脱人
- 五欲の心に無著なるを、まさに解脱人と名づく。
- 鎮処無明海 常為死王駆
- 処を無明の海を鎭めて、常に死王の為に駆られ、
- 寧知恋声色 不楽離凡夫
- むしろ声色に知恋し、離を樂はざるを凡夫とす。
- 曠野無明路 人走喩凡夫
爾時勝光大王 聞仏為説生死過患。得未曽有。 深生厭離。合掌恭敬。一心瞻仰。白仏言。
- その時勝光大王、仏の生死を説いて過患と為すを聞きて未曾有を得、深く生を厭離す。合掌恭敬し一心に瞻仰して、仏に白して言く。
世尊。如来大慈。為説如是微妙法義。我今頂戴。
- 世尊、如来大慈、爲にこの如き微妙の法義を説くを、我今頂戴す。
仏言。善哉善哉。大王。当如説行。勿為放逸。
- 仏の言く、善哉善哉、大王、まさに説のごとく行じて放逸することなかるべし。
時勝光王及諸大衆。皆悉歓喜。信受奉行
- 時に勝光王及び諸の大衆、みな悉く歓喜して、信受奉行す。
- 仏説譬喩経