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(ページの作成: 西方指南抄 下本<br /> 御ふみこまかにうけたまはり候ぬ。はるかなるほとに。念佛の事きこしめさむかために。わさとつかひをあ...)
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2011年11月24日 (木) 20:50時点における版

西方指南抄 下本

御ふみこまかにうけたまはり候ぬ。はるかなるほとに。念佛の事きこしめさむかために。わさとつかひをあけさせたまひて候。御念佛の御こころさしのほと。返返もあはれに候。

さてはたつねおほせられて候念佛の事は。往生極樂のためには。いつれの行といふとも。念佛にすきたる事は候はぬ也。そのゆへは。念佛はこれ彌陀の本願の行なるかゆへなり。本願といふは。あみた佛のいまたほとけにならせたまはさりしむかし。法藏菩薩と申しいにしへ。佛の國土をきよめ。衆生を成就せむかために。世自在王如來と申佛の御まへにして。四十八の大願をおこしたまひしせの中に。一切衆生の往生のために。一の願をおこしたまへり。これを念佛往生の本願と申也。

すなわち無量壽經の上卷にいはく。設我得佛。十方衆生至心信樂欲生我國乃至十念。若不生者不取正覺と  云云
善導和尚この願を釋して云。若我成佛。十方衆生稱我名號下至十聲。若不生者不取正覺。彼佛今現在成佛。當知本誓重願不虚。衆生稱念必得往生 已上 念佛といふは。佛といふは佛の法身を憶念するにもあらす。佛の相好を觀念するにもあらす。たたこころをひとつにして。もはら阿彌陀佛の名號を稱念する。これを念佛とは申也。かるかゆへに稱我名號といふなり。念佛はほかの一切の行は。これ彌陀の本願にあらさるかゆへに。たとひめてたき行なりといふとも。念佛にはおよはす。おほかたそのくににむまれむとおもはむものは。その佛のちかひにしたかふへきなり。されは彌陀の淨土にむまれむとおもはむものは。彌陀の誓願にしたかふへきなり。本願の念佛と。本願にあらさる餘行と。さらにたくらふへからす。かるかゆへに往生極樂のためには。念佛の行にすきたるは候はすと申なり。往生にあらさるみちには。餘行またつかさとるかたあり。
しかるに衆生の生死をはなるるみち。佛のをしへやうやうにおほく候へとも。このころ人の生死をはなれ。三界をいつるみちは。たた極樂に往生し候はかりなり。このむね。聖教のおほきなることわりなり。

つきに極樂に往生するに。その行やうやうにおほく候へとも。われらか往生せむこと。念佛にあらすはかなひかたく候なり。そのゆへは。佛の本願りるかゆへに。願力にすかりて往生することはやすし。されはせむするところは。極樂にあらすは生死をはなるへからす。念佛にあらすは極樂へむまるへからさるものなり。ふかくこのむねを信せさせたまひて。ひとすちに極樂をねかひ。ひとすちに念佛をして。このたひかならす生死をはなれむとおほすへきなり。また一一の願のおはりに。もししからすは正覺をとらしとちかひたまへり。しかるに阿彌陀佛ほとけになりたまひてよりこのかた。すてに十劫をへたまへり。まさにしるへし。誓願むなしからす。しかれは衆生の稱念するもの。一人もむなしからす。往生する事をう。もししからすは。たれか佛になりたまへることを信すへき。三寶滅盡の時なりといゑとも。一念すれはなほ往生す。五逆深重の人なりといゑとも。十念すれは往生す。いかにいはむや。三寶の世にむまれて。五逆をつくらさるわれら。彌陀の名號をとなえむに。往生うたかふへからす。いまこの願にあえることは。まことにこれおほろけの縁にあらす。よくよくよろこひおほしめすへし。

たとひまたあふといゑとも。もし信せされは。あはさるかことし。いまふかくこの願を信せさせたまへり。往生うたかひおほしめすへからす。かならすかならすふたこころなく。よくよく御念佛候て。このたひ生死をはなれ。極樂にむまれさせたまふへし。また觀無量壽經に云。一一光明遍照十方世界。念佛衆生攝取不捨 已上 これは光明たた念佛の衆生をてらして。よの一切の行おはてらさすといふなり。たたし。よの行をしても極樂をねかはは。ひかりてらして攝取したまふへし。いかかた念佛のものはかりをえらひて。てらしたまへるや。善導和尚釋してのたまはく。彌陀眞色如金山。相好光明照十方。唯有念佛蒙光攝。當知本願最爲強 已上 念佛はこれ彌陀の本願の行なるかゆへに。成佛の光明つよく本地の誓願をてらしたまふなり。餘行これ本願にあらさるかゆへに。彌陀の光明きらいててらしたまはさるなり。いま極樂をもとめむ人は。本願の念佛を行して。攝取のひかりにてらされむとおほしめすへし。これにつけても。念佛大切に候。よくよく申させたまふへし。また釋迦如來この經の中に。定散のもろもろの行をときおはりてのちに。まさしく阿難に付屬したまふときには。かみにとくところの。散善の三福業。定善の十三觀をは付屬せすして。たた念佛の一行を付屬したまへり。經に云く。佛告阿難。汝好持是語。持是語者。即是持無量壽佛名 已上 善導和尚この文を釋してのたまはく。從佛告阿難汝好持是語已下。正明付屬彌陀名號流通於遐代。上來雖説定散兩門之益。望佛本願。意在衆生一向專稱彌陀佛名 已上

この定散のもろもろの行は。彌陀の本願にあらす。かるかゆへに。釋迦如來往生の行を付囑したまふに。餘の定善散善おは付囑せすして。念佛はこれ彌陀の本願なるかゆへに。まさしくえらひて。本願の行を付屬したまへるなり。いま釋迦のおしえにしたかひて。往生をもとむるもの。付屬の念佛を修して。釋迦の御こころにかなふへし。これにつけても。またよくよく御念佛候て。佛の付屬にかなはせたまふへし。また六方恒沙の諸佛。御したをのへて。三千世界におほいて。もはらたた彌陀の名號をとなへ往生すといふは。これ眞實也と證誠したまふなり。これまた念佛は彌陀の本願なるかゆへに。六方恒沙に諸佛。これを證誠したまふ。餘の行は本願にあらさるかゆへに。六方恒沙の諸佛證誠したまはす。これにつけても。よくよく御念佛候へし。彌陀の本願。釋迦の付屬。六方の諸佛の證誠護念を。ふかくかうふらせたまふへし。彌陀の本願。釋尊の付屬。六方の諸佛の護念。一一にむなしからす。このゆへあ念佛の行は。諸行にすくれたるなり。

また善導和尚は彌陀の化身なり。淨土の祖師おほしといへとも。たたひとへに善導による。往生の行おほしといゑとも。おほきにわかちて二としたまへり。一には專修。いはゆる念佛なり。二には雜修なり。いはゆる一切のもろもろの行なり。上にいふところの定散等これなり。往生禮讃に云く。若能如上念念相續。畢命爲期者。十即十生。百即百生と云へり。專修と雜行との得失なり。得といふは。往生する事をうるといふ。いはく。念佛するものは。すなわち十は十人なから往生し。百はすなわち百人なから往生すといふこれなり。

失といふは。いはく。往生の益をうしなえるなり。雜修のものは。百人か中に。まれに一二人往生する事をえて。そのほかは生せす。千人か中に。まれに三五人むまれて。その餘はむまれす。專修のものはみなむまるることをうるは。なにのゆへそと。阿彌陀佛の本願に相應せるかゆへなり。釋迦如來のおしえに隨順せるかゆへなり。雜業のものはむまるることのすくなきは。なむのゆへそと。彌陀の本願にたかへるかゆへなり。念佛して淨土をもとむるものは。二尊の御こころにふかくかなへり。雜修をして淨土をもとむるものは。二佛の御こころにそむけり。善導和尚二行の得失を判せること。これのみにあらす。觀經の疏と申すふみの中に。おほく得失をあけたり。しけきかゆへにいたさす。これをもてしるへし。おほよそこの念佛は。そしれるものは地獄におちて。五劫苦をうくることきわまりなし。信するものは淨土にむまれて。永劫たのしみをうくることきわまりなし。なほなほいよいよ信心をふかくして。ふたこころなく念佛せさせたまふへし。くはしき事御ふみにつくしかたく候。このつかひ御申候へし上野のくにの住人。おほこの太郎と申もの。京へまかりのほりたるついてに。法然聖人にあひたてまつりて。念佛のしさいとひたてまつりて。本國へくたりて念佛をつとむるに。ある人申ていはく。いかなる罪をつくれとも。念佛を申せは往生す。一向專修なるへしといふとも。ときときは法華經おもよみたてまつり。また念佛申さむも。なにかはくるしからむと申けれは。まことにさるかたもありとて。法然聖人の御もとへ。消息にてこのよしを。いかかと申たりける御返事かくのことし。件の太郎は。このすすめによりて。めおとことも往生してけり

聖人の御返事

さきの便にさしあふ事候て。御ふみをたにみとき候さりしかは。御返事こまかに申さす。さためておほつかなくおほしめし候覽と。おそれおもふたまへ候。さてはたつねおほせられて候ことともは。御ふみなとにて。たやすく申ひらくへきことにても候はす。あはれまことに。京にひさしく御とうりう候し時。よし水の坊にて。こまかに御さたありせは。よく候なまし。おほかたは。念佛して往生すと申ことはかりおは。わつかにうけたまはりて。わかこころひとつに。ふかく信したるはかりにてそ候へとも。人まてつはひらかに申きかせなとするほとの身にては候はねは。ましていりたちたることとも不審なと。御ふみに申ひらくへしともおほえ候はねとも。わつかにうけたまはりおよひて候はむほとの事を。ははかりまいらせて。すへてともかくも御返事を申ささらむことのくちおしく候へは。こころのおよひ候はむほとのことは。かたのことく申さむとおもひ候也。

まつ三心具足して往生すと申事は。まことにその名目はかりをうちきくおりは。いかなるこころを申やらむと。ことことしくおほえ候ぬへけれとも。善導の御こころにて。こころやすき事にて候なり。もしならひさたせむ無智の人。さとなからむ女人なとは。え具せぬほとのこころえにては候はぬなり。まめやかに往生せむとおもひて念佛申さむ人は。自然に具足しぬへきこころにて候ものを。
そのゆへは。三心と申は。觀無量壽經にとかれて候やうは。もし衆生あて。かのくににむまれむとねかはむものは。三種の心をおこして。すなはち往生すへし。なにおか三とする。一には至誠心。二には深心。三には迴向發願心なり。三心を具せるもの。かならすかのくににむまるととかれたり。しかるに善導和尚の御こころによらは。はしめの至誠心といふは眞實心なり。眞實といふは。うちにはむなしくして。外にはかさるこころなきを申也。すなわち觀無量壽經を釋してのたまはく。外に賢善精進の相を現して。内には虚假をいたく事なかれと。この釋のこころは。内にはおろかにして。外にはかしこき人とおもはれむとふるまひ。内には惡をつくりて。外には善人のよしをしめし。内には懈怠にして。外には精進の相を現するを。實ならぬこころとは申也。
内にも外にも。たたあるままにて。かさるこころなきを。至誠心とはなつけたるにこそ候めれ。

二には深心とは。すなわちふかく信するこころなり。なに事をふかく信するそといふに。もろもろの煩惱を具足して。おほくのつみをつくりて。餘の善根なからむ凡夫。阿彌陀佛の大悲の願をあふきて。そのほとけの名號をとなえて。もしは百年にても。もしは四五十年にても。もしは十二十年乃至一二年。すへておもひはしめたらむより。臨終の時にいたるまて。退せさらむ。もしは七日一日。十聲一聲にても。おほくもすくなくも。稱名念佛の人は決定して往生すと信して。乃至一念もうたかふ事なきを。深心と也。しかるに。もろもろの往生をねかふ人も。本願の名號おはたもちなから。なほ内に妄念のおこるにもおそれ。外に餘善のすくなきによりて。ひとへにわかみをかろめて。往生を不定におもふは。すてに佛の本願をうたかふなり。
されは善導は。はれかに未來の行者の。このうたかひをのこさむ事をかかみて。うたかひをのそきて。決定心をすすめむかために。煩惱を具してつみをつくりて。善根すくなくさとりなからむ凡夫。一聲まての念佛。決定して往生すへきことわりを。こまかに釋してのたまへるなり。たとひおほくの佛。そらの中にみちみちて。ひかりをはなち。御したをのへて。つみをつくれる凡夫。念佛して往生すといふ事は。ひかことなり。信すへからすとのたまふとも。それによりて一念も。おとろきうたかふこころあるへからす。

そのゆへは。阿彌陀佛いまた佛になりたまはさりしむかし。もしわれ佛になりたらむに。わか名號をとなふる事。十聲一聲まてせむもの。わかくににむまれすは。われ佛にならしと。ちかひたまひたりし。その願むなしからすして。すてに佛になりたまへり。しるへし。その名號をとなえむ人は。かならす往生すへしといふことを。また釋迦佛この娑婆世界にいてて。一切衆生のために。かの阿彌陀佛の本願をとき。念佛往生をすすめたまへり。また六方の諸佛はその説を證誠したまへり。このほかにいつれの佛の。またこれらの諸佛にたかひて。凡夫往生せすとはのたまふへきそといふことわりをもて。佛現してのたまふとも。それにおとろきて。信心をやふり。うたかひをいたす事あるへからす。いはむや佛たちののたまはむおや。いはむや辟支佛等をやと。こまこまと釋したまひて候也。
いかにいはむや。このころの凡夫のいひさまたけむおや。いかにめてたき人と申とも。善導和尚にまさりて。往生のみちをしりたらむ事もかたく。善導またたたの凡夫にあらす。すなわち阿彌陀佛の化身なり。かの佛わか本願をひろめて。ひろく衆生に往生せさせむれうに。かりに人とむまれて。善導とは申なり。そのおしえ申せは。佛説にてこそ候へ。いかにいはむや垂跡のかたにても。現身に三昧をえて。まのあたり淨土の莊嚴おもみ。佛にむかひたてまつりて。たたちに佛のおしへをうけたまはりて。のたまへることはともなり。
本地をおもふにも。垂跡をたつぬるにも。かたかたあふきて信すへきおしえなり。しかれはたれたれも。煩惱のうすくこきおもかへりみす。罪障のかろきおもきおもさたせす。たたくちにて南無阿彌陀佛ととなえは。こゑあつきて決定往生のおもひをなすへし。決定心を。すなわち深心となつく。その信心を具しぬれは。決定して往生するなり。詮するところは。たたとにもかくにも。念佛しと往生すといふ事をうたかはぬを。深心とはなつけて候なり。

三には迴向發願心と申は。これ別のこころにては候はす。わか所修の行を一向に迴向して。往生をねかふこころなり。かくのことく三心を具足して。かならす往生す。このこころひとへにかけぬれは往生せすと。善導は釋したまへるなり。たとひまことのこころありて。うへをかさらすとも。佛の本願をうたかはは。深心かけたるこころなり。たとひうたかふこころなくとも。うへをかさりて。うちにまことにおもふこころなくは。至誠心かけたるこころなるへし。たとひまたこのふたつのこころを具して。かさりこころもなく。うたかふこころもなくとも。極樂に往生せむとねかふこころなくは。迴向發願心すくなかるへし。また三心とわかつおりは。かくのことく別別になるやうなれとも。詮するところは。眞實のこころをおこして。ふかく本願を信して。往生をねかはむこころを。三心具足のこころとは申へき也。まことにこれほとのこころをたにも具せすしては。いかか往生ほとの大事おはとけ候へき。このこころを申せは。またやすきことにて候そかし。これをかやうにこころえしらねはとて。三心具せぬにては候はぬなり。
そのなをたにもしらぬものも。このこころおはそなえつへく。またよくよくしりたらむ人の中にも。そのままに具せぬも候ぬへきこころにて候なり。されはこそ。いふかひなき人のなかよりも。たたひとへに念佛申はかりにて。往生したりとふことは。むかしより申つたえたることにて候へ。それはみなしらねとも。三心を具したる人にてありけりと。こころうる事にて候なり。
またとしころ念佛申たる人の臨終わるき事の候は。さきに申つるやうに。うへはかりをかさりて。たうとき念佛者なと。人にいはれむとのみおもひて。したにはふかく本願おも信せす。まめやかに往生おもねかわぬ人にてこそは候らめとこそは。こころえられ候へ。
されはこの三心を具せぬゆへに。臨終もわるく。往生もえせぬとは申候也。かく申候へは。さては往生は大事にこそあむなれとおほしめす事。ゆめゆめ候まし。一定往生すへきそとおもひとらぬこころを。やかて深心かけて往生せぬこころとは申候へは。いよいよ一定とこそおほしめすへき事にて候へ。
まめやかに往生のこころさしありて。彌陀の本願うたかはすして。念佛申さむ人は。臨終わるきことは。おほかた候ましきなり。
そのゆへは。佛の來迎したまふ事は。もとより行者の臨終正念のためにて候なり。それをこころえぬ人は。みなわか臨終正念にて念佛申たらむおりに。佛はむかへたまふへきとのわこころえて候は。佛の願おも信せす。經の文おもこころえぬにて候なり。
稱讃淨土經には。慈悲をもてくわえたすけて。こころをしてみたらしめたまはすと。とかれて候也。たたの時に。よくよく申おきたる念佛によりて。臨終にかならす佛來迎したまふ。佛のきたり現したまへるをみたてまつりて。正念には住すと申しつたえて候なり。
しかるに。さきの念佛おはむなしくおもひなして。よしなき臨終正念おのみいのる人なとの候は。ゆゆしきひかゐむにいりたることにて候なり。されは佛の願を信さむ人は。かねて臨終うたかふこころあるへからすとこそはおほへ候へ。たたたうしより申さむ念佛おそ。いよいよもこころをいたして申候へき。いつかは佛の願にも。臨終の時念佛申たらむ人おのみむかへむとは。たてたまひて候。臨終の念佛にて往生をすと申ことは。往生おもねかはす。念佛おも申さすして。ひとへにつみをのみつくりたる惡人の。すてにしなむとする時に。はしめて善知識のすすめにあひて。念佛して往生すとこそ。觀經にもとかれて候へ。もとよりの行者。臨終のさたは。あなかちにすへきやうも候はぬなり。佛の來迎一定ならは。臨中正念はまた一定とおほしめすへきなり。この御こころをえて。よくよく御こころをととめて。こころえさせたまふへきことにて候なり。

またつみをつくりたる人たにも。念佛して往生す。まして法華經なとよみて。また念佛申さむは。なとかはあしかるへきと。人人の申候らむことは。京へむにも。さやうに申候人人おほく候へは。まことにさそ候らむ。これは餘の宗のこころにてこそは候はめ。よしあしをさため申候へきことに候はす。ひかことと申候はは。おそれあるかたもおほく候。
たたし淨土宗のこころ。善導の御釋には。往生の行を。おほきにわかち二とす。一には正行。二には雜行也。はしめの正行といふは。それにまたあまたの行あり。はしめに讀誦の正行。これは大無量壽經・觀無量壽經・阿彌陀經等の三部經をよむなり。
つきに觀察正行。これは極樂の依正二報のありさまを觀するなり。つきに禮拜正行。これも阿彌陀佛を禮拜するなり。
つきに稱名正行。これは南無阿彌陀佛ととなふるなり。つきに讃嘆供養正行。これは阿彌陀佛を讃嘆供養したてまつるなり。これをさして五種の正行となつく。讃嘆と供養とを二にわかつには。六種の正行とも申なり。またこの正行につきて。ふさねて二種とす。一には一心にもはら彌陀の名號をとなえて。たちゐおきふしよるひる。わするることなく。念念にすてさるを。正定の業となつく。かの佛の願によるかゆへにと申て。念佛をもて。まさしきさためたる往生の業にたてて。禮誦等によるおは。なつけて助業とすと申て。念佛のほかの禮拜や讀誦や觀察や讃嘆供養なとおは。かの念佛者をたすくる業と申候なり。

さてこの正定の業と助業とをのそきて。そのほかの諸行おは。布施・持戒・忍辱・精進等の六度萬行も。法華經おもよみ。眞言おもおこなひ。かくのことくの諸行おは。みなことことく雜行となつく。さきの正行を修するおは。專修の行者といふ。のちの雜行を修するを。雜修の行者と申也。この二行の得失を判するに。さきの正行を修するには。こころつねにかのくにに親近して。憶念ひまなし。のち雜行を行するには。こころつねに間斷す。迴向してむまるることをうへしといゑとも。疎雜の行となつくといひて。極樂にはうとき行とたてたり。また專修のものは。十人は十人なからむまれ。百人は百人なからむまる。なにをもてのゆへに。外の雜縁なし。正念をうるかゆへに。彌陀の本願と相應するかゆへに。釋迦のおしえにしたかふかゆへに。恒沙の諸佛のみことにしたかふかゆへに。雜修のものは。百人に一二人。千人に四五人むまる。なにをもてのゆへに。雜縁亂動す。正念をうしなふかゆへに。彌陀の本願に相應せさるかゆへに。釋迦のおしへにしたかはさるかゆへに。諸佛のみことにたしかはさるかゆへに。繋念相續せさるかゆへに。憶想間斷するかゆへに。名利と相應するかゆへに。自障障他するかゆへに。このみて雜縁にちかつきて。往生の正行をさふるかゆへにと。釋せられて候めれは。善導和尚をふかく信して。淨土宗にいらむ人は。一向に正行を修すへしと身事にてこそ候へ。

そのうへに。善導のおしえをそむきて。よの行を修せむとおもはむ人は。おのおのならひたるやうともこそ候らめ。それをよしあしとはいかか申候へき。善導の御こころにてすすめたまへる行ともをおきなから。すすめたまはさる行を。すこしにてもくはふへきやうなしと申ことにて候なり。すすめたまひつる正行はかりをたにも。なほものうきみに。いまたすすめたまはぬ雜行をくはへん事は。まことしからぬかたも候そかし。またつみをつくりたる人たにも往生すれは。まして善なれは。なにかくるしからむと申候らむこそ。むけにけきたなくおほえ候へ。往生おもたすけ候ははこそは。いみしくも候はめ。さまたけになりならぬはかりを。いみしき事にてくはえおこなはむこと。なにかせむあて候へき。
惡をは。されは佛の御こころに。このつみつくれとやはすすめさせたまふ。かまえてととめよとこそは。いましめたまへとも。凡夫のならひ。當時のまとひにひかれて惡をつくれ。ちからおよはぬ事にてこそ候へ。まことに惡をつくる人のやうに。しかるへくて。經をよみたく。餘の行おもくはへたからむは。ちからおよはず候。
たたし法華經なとよまむことを。一言も惡をつくらむことにいひくらへて。それ。もくるしからねは。ましてこれもなと申候はむこそ。不便のことにて候へ。ふかきみのりも。あしくこころうる人にあひぬれは。かへりてものならすきこえ候こそ。あさましく候へ。これをかやうに申候おは。餘行の人人はらたつことにて候に。御こころひとつにこころえて。ひろくちらさせたまふましく候。あらぬさとりの人人の。ともかくも申候はむ事おは。ききいれさせたまはて。たたひとすちに。善導の御すすめにしたかひて。いますこしも。一定往生する念佛のかすを。申あはむとおほしめすへく候。
たとひ往生のさわりとこそならすとも。不定往生とはきこえて候めれは。一定往生の行を修すへきいとまをいれて。不定往生の業をくわえむ事は。損にて候はすや。よくよくこころうへき事にて候なり。たたし。かく申候へは。雜行をくわえむ人。なかく往生すましと申にては候はす。いかさまにも餘の行人なりとも。すとて人をくたし。人をそしる事は。ゆゆしきとかおもきことにて候なり。よくよく御つつしみ候て。雜行の人なれはとて。あなつる御こころ候まし。よかれあしかれ。人のうえの善惡をおもひいれぬか。よきことにて候也。またもとよりこころさしこの門にありて。すすむへからむ人おは。こしらへすすめたまふへく候。
さとりたかひあらぬさまならむ人なとに。論しあふ事は。ゆめゆめあるましき事にて候なり。よくよくならひしりたまひたるひしりたにも。さやうの事おは。つつしみておはしましあひて候そ。ましてとのはらなとの御身にては。一定ひか事にて候はむするに候。たた御身ひとつに。まつよくよく往生をもねかひ。念佛おもはけませたまひて。くらゐたかく往生して。いそきかへりきたりて。人おもみちひかむとおほしめすへく候。かやうにこまかにかきつつけて申候へとも。返返ははかりおもひて候なり。あなかしこあなかしこ。御ひろうあるましく候。御らむしこころえさせたまひてのちには。とくとくひきやらせたまふへく候。あなかしこあなかしこ。

  三月十四日 源空

しやう如はうの御事こそ。返返あさましく候へ。そののちは。こころならすうときやうになりまいらせ候て。念佛の御信もいかかと。ゆかしくはおもひまいらせ候つれとも。さしたる事候はす。
また申へきたよりも候はぬやうにて。おもひなから。なにとなくて。もなしくまかりすき候つるに。たたれいならぬ御事。大事になとはかりうけたまはり候はむ。
いま一とは。みまいらせたく。おはりまての御念佛の事へ。おほつかなくこそおもひまいらせ御候へきにまし御こころにかけて。つねに御たつね候らむこそ。まことにあはれにも。こころくるしくも。おもひまいらせ候へ。

さうなくうけたまはり候ままに。まかり候て。みまいらせたく候へとも。おもひきりて。しはしいてありき候はて。念佛申候はやと。おもひはしめたる事の候を。やうにこそよる事にて候へ。
これおは退してもまいるへきにて候に。またおもひ候へは。せむしては。このよの見參は。とてもかくても候なむ。かはねをしよするまとひにもなり候ぬへし。
たれとても。とまりはつへきみちも候はす。われも人も。たたおくれさきたつかはりめはかりにてこそ候へ。
そのたえまをおもひ候も。またいつまてかとさためなきうえに。たとひひさしと申とも。ゆめまほろし。いくほとかは候へきなれは。たたかまへて。おなし佛のくににまいりあひて。はちすのうえにて。このよのいふせさおもはるけ。ともに過去の因縁おもかたり。たかひに未來の化道おもたすけむことこそ。返返も詮にて候へきと。はしめより申おき候しか。返返も本願をとりつめまいらせて。一念もうたかふ御こころなく。こゑも南無阿彌陀佛と申せは。わかみはたとひ。いかにつみふかくとも。佛の願力によりて。一定往生するそとおほしめして。よくよくひとすちに。御念佛の候へきなり。

われらか往生は。ゆめゆめわかみのよきあしきにはより候まし。ひとへに佛の御ちからはかりにて候へきなり。わかちからはかりにては。いかにめてたくたうとき人と申とも。末法のこのころ。たたちに淨土にむまるほとの事は。ありかたくそ候へき。
また佛の御ちからにて候はむに。いかにつみふかく。おろかにつたなきみなりとも。せ(そ)れにはより候まし。たた佛の願力を信し信せぬにそより候へき。されは觀無量壽經にとかれて候。むまれてよりこのかた。念佛一遍も申さす。それならぬ善根もつやつやとなくて。あさゆふ。ものをころし。ぬすみし。かくのこときのもろもろのつみをのみつくりて。とし月をゆけとも。一念も懺悔のこころもなくて。あかしくらしたるもののおはりの時に。善知識のすすむるにあひて。たたひとこゑ南無阿彌陀佛と申たるによりて。五十億劫のあひた生死にめくるへきつみを滅して。化佛菩薩三尊の來迎にあつかりて。汝佛のみなをとなふるかゆへに。つみ滅せり。われきたりて。なむちをむかふと。ほめられまいらせて。すなわちかのくにに往生すと候。

また五逆罪と申候て。現身にちちをころし。ははをころし。惡心をもて佛をころしめ。諸僧を破し。かくのことくおもきつみをつくり。一念懺悔のこころもなからむ。そのつみによりて。無間地獄におちて。おほくの劫をおくりて。苦をうくへからむもののおわりの時に。善知識のすすめによりて。南無阿彌陀佛と。十聲となふるに。一こゑことに。おのおの八十億劫のあひた生死にめくるへきつみを滅して。往生すととかれて候めれ。
さほとの罪人たにも。十聲一聲の念佛にて。往生のし候へは。まことに佛の本願のちからならては。いかてかさること候へきとおほへ候て。本願むなしからすといふことは。これにても信しつへくこそ候へ。これまさしき佛説にて候。佛ののたまふみことはは。一言もあやまたすと申候へは。たたあふきて信すへきにて候。これをうたかはは。佛の御そらことと申にもなりぬへく。かへりてはまた。そのつみに候ぬへしとこそおほえ候へ。ふかく信せさせたまふへく候。
さて往生はせさせおはしますましかやうにのみ。申きかせまいらする人人の候らむこそ。返返あさましく。こころくるしく候へ。
いかなる智者めてたき人とおほせらるとも。それになほとろかされおはしまし候そ。おのおののみちには。めてたくたうとき人なりとも。さとりあらす行ことなる人の申候ことは。往生淨土のためは。中中ゆゆしき退縁・惡知識とも申候ぬへきことともにて候。たた凡夫のはからひおはききいれさせおはしまさて。ひとすちに佛の御ちかひをたのみまいらせさせたまふへく候。
さとりことなる人の。往生いひさまたけむあよりて。一念もうたかふこころあるへからすといふことわりは。善導和尚のよくよくこまかにおほせられおきたることにて候也。たとひおほくの佛。そらの中にみちみちて。ひかりをはなち。御したをのへて。惡をつくりたる凡夫なりとも。一念してかならす往生すといふことは。ひか事そ。信すへからすとのたまふとも。それによりて。一念もうたかふこころあるへからす。
其のゆへは。阿彌陀佛のいまた佛になりたまはさりしむかし。はしめて道心をおこしたまひし時。われ佛になりたらむに。わか名號をとなふること。十聲一聲まてせむもの。わかくににむまれすは。われ佛にならしと。ちかひたまひたりし。その願むなしからす。すてに佛になりたまへり。また釋迦佛この娑婆世界にいてて。一切衆生のために。かの本願をとき。念佛往生をすすめたまへり。

また六方恒沙の諸佛。この念佛のて一定往生すと。釋迦佛のときたまへるは決定なり。もろもろの衆生。一念もうたかふへからす。ことことく一佛ものこらす。あらゆる諸佛。みなことことく證誠したまへり。すてに阿彌陀佛は願にたて。釋迦佛その願をとき。六方の諸佛その説を證誠したまへるうえに。このほかには。なに佛の。またこれらの諸佛にたかひて。凡夫往生せすとは。のたまふへきそといふことわりをもて。佛現してのたまふとも。それにおとろきて。信心をやふり。うたかふこころあるへからす。
いはむや菩薩達ののたまはむおや。上辟支佛おやと。こまこまと善導釋したまひて候也。

ましてこのころの凡夫の。いかにも申候はむによりて。けにいかかあらむすらむなと。不定におほしめす御こころ。ゆめゆめあるましく候。よにめてたき人と申とも。善導和尚にまさりて。往生のみちをしりたらむこともかたく候。善導また凡夫にはあらす。阿彌陀佛の化身なり。阿彌陀佛の。わか本願ひろく衆生に往生せさせむれうに。かりに人にむまれて。善導とは申候なり。
そのおしへ申せは。佛説にてこそ候へ。あなかしこあなかしこ。
うたかひおほしめすましく候。またはしめより。佛の本願に信をおこさせおはしまして候し御こころのほと。みまいらせ候しに。なにしにかは。往生はうたかひおほしめし候へき。經にとかれて候ことく。いまた往生のみちもしらぬ人にとりてのことに候。
もとよりよくよくきこしめししたためて。そのうへ御念佛功つもりたることにて候はむには。かならすまた臨終の善知識にあはせおはしまさすとも。往生は一定せさせおはしますへきことにてこそ候へ。中中あらぬすちなる人は。あしく候なむ。たたいかならむ人にても。あま女房なりとも。つねに御まへ候はむ人に。念佛まうさせて。きかせおはしまして。御こころひとつをつよくおほしめして。たた中中一向に凡夫の善知識をおほしめしすてて。佛を善知識にたのみまいらせさせたまふへく候。
もとより佛の來迎は。臨終正念のためにて候也。それを人のみな。わか臨終正念にして念佛申たるに。佛はむかへたまふとのみ。こころえて候は。佛の願を信せす。經の文を信せぬにて候也。
稱讃淨土經の文を信せぬにて候也。稱讃淨土經には。慈悲をもちくわへたすけて。こころをしてみたらしめたまはすと。とかれて候也。たたのときによくよく申おきたる念佛によりて。佛は來迎したまふときに。正念には住すと申へきにて候也。
たれも佛をたのむこころははすくなくして。よしなき凡夫の善知識をたのみて。さきの念佛おはむなしくおもひなして。臨終正念をのみ。いのることともにてのみ候か。ゆゆしきひかゐむのことにて候なり。これをよくよく御こころえて。つねに御めをふさき。たなこころをあはせて。御こころをしつめて。おほしめすへく候。ねかわくは。阿彌陀佛の本願あやまたす。臨終の時かならす。わかまへに現して。慈悲をくわえたすけて。正念に住せしめたまへと。御こころにもおほしめして。くちにも念佛申させたまふへく候。これにすきたる事候まし。
こころよわくおほしめすことの。ゆめゆめ候ましきなり。かやうに念佛をかきこもりて申候はむなとおもひ候も。ひとへにわかみ一のためとのみは。もとよりおもひ候はす。おりしもこの御ことを。かくうけたまはり候ぬれは。いまよりは一念ものこさす。ことことくその往生の御たすけになさむと。迴向しまいらせ候はむすれは。かまへてかまへて。おほしめすさまに。とけさせまいらせ候ははやとこそは。ふかく念しまいらせ候へ。
もしこのこころさしまことならは。いかてか御たすけにもならて候へき。たのみおほしめさるへきにて候。
おほかたた。申いて候しひとことはに。御こころをとめさせおはしますことも。このよひとつのことにては候はしと。さきのよもゆかしくあはれにこそ。おもひしらるることにて候へは。うけたまはり候ことく。このたひまことに。さきたたせおはしますにても。またおもはすにさきたちまいらせ候事になる。さためなさにて候とも。ついに一佛淨土にまいりあひまいらせ候はむことは。うたかひなくおほえ候。

ゆめまほろしのこのよにて。いま一度なとおもひ申候事は。とてもかくても候なむ。これおは。ひとすちにおほしめしすてていよいよもふかくねかふ御こころおもまし。御念佛おもはけませおはしまして。かしこにてまたむとおほしめすへく候。返返もなほなほ往生をうたかふ御こころ候ましきなり。五逆十惡のおもきつみつくりたる惡人。なを十聲一聲の念佛によりて。往生をし候はむに。
ましてつみつくらせおはします御事は。なにことにかは候へき。たとひ候へきにても。いくほとのことかは候へき。この經にとかれて候罪人には。いひくらふへくやは候。それにまつこころをおこし。出家をとけさせおはしまして。めてたきみのりにも縁をむすひ。ときにしたかひ日にそえて善根のみこそは。つもらせおはします事にて候はめ。そのうへ。ふかく決定往生の法文を信して。一向專修の念佛にいりて。ひとすちに彌陀の本願をたのみて。ひさしくならせおはしまして候。なに事にかは。ひとことも往生をうたかひおほしめし候へき。

專修の人は。百人は百人なから。十人十人なから往生すと。善導のたまひて候へは。ひとりそのかすにもれさせおはしますへきかはとこそは。おほえ候へ。善導おもかこち。佛の本願おもせめまいらせさせたまふへく候。こころよはくは。ゆめゆめおほしめすましく候。あなかしこあなかしこ。ことわりをや申ひらき候とおもひ候ほとに。よくおほくなり候ぬる。さやうのおりふし。こちなくやとおほえ候へとも。もしさすかのひたる御ことにてもま候らむ。えしり候はね。このたひ申候はては。いつおかはまち候へき。もしのとかにきかせおはしまして。一念も御こころをすすむるたよりにやなり候と。おもひ候はかりに。ととめえ候はて。これほともこまかになり候ぬ。機嫌をしり候はぬは。はからひかたくて。わひしくこそ候へ。もしむけによはくならせおはしましたる御事にて候はは。これはことなかく候へきなり。要をとりてつたえまいらせさせおはしますへく候。うけたまはり候ままに。なにとなくあはれにおほえ候て。おしかへしまた申候也

又故聖人の御坊の御消息

一念往生の義。京中にも粗流布するところなり。おほよそ言語道斷のことなり。まことにほとおと御問におよふへからさるなり。詮するところ。雙卷經の下に。乃至一念信心歡喜といひ。また善導和尚は。上盡一形下至十聲一聲等定得往生。乃至一念無有疑心といえる。これらの文を。あしくみたるともから。大邪見に住して申候ところなり。乃至といひ下至といえる。みな上盡一形をかねたることはなり。

しかるをちかころ。愚癡無智のともから。おほくひとへに十念一念なりと執して。上盡一形を廢する條。無慚無愧のことなり。まことに十念一念まても。佛の大悲本願なほかならす。引接耴たまふ無上の功徳なりと信して。一期不退に行すへき也。
文證おほしといゑとも。これをいたすにおよはす。いふにたらさる事なり。ここにかの邪見の人。この難をかふりて。こたえていはく。わかいふところも。信を一念にとりて念すへきなり。しかりとて。また念すへからすとはいはすといふ。これまたことはは尋常なるににたりといゑとも。こころは邪見をはなれす。
しかるゆへに。決定の信心をもて一念してのちは。また念せすといふとも。十惡五逆なほさわりをなさす。いはむや餘の少罪おやと信すへきなりといふ。このおもひに住せむものは。たとひおほく念すといはむ。阿彌陀佛の御こころにかなはむや。いつれの經論・人師の説そや。これひとへに懈怠無道心・不當不善のたくひの。ほしいままに惡をつくらむとおもひて。また念せすは。その惡かの勝因をさえて。むしろ三途におちさらむや。かの一生造惡のものの。臨終に十念して往生するは。これ懺悔念佛のちからなり。この惡の義には混すへからす。かれは懺悔の人なり。これは邪見の人なり。なほ不可説不可説の事也。

もし精進のものありといふとも。この義をきかは。すなわち懈怠になりなむ。まれに戒をたもつ人ありといふとも。この説を信せは。すなわち無慚なり。おほよそかくのこときの人は。附佛法の外道なり。師子のみの中の虫なり。またうたかふらくは。天魔波旬のために。精進の氣をうはわるるともからの。もろもろの往生の人をすまたけむとするなり。あやしむへし。ふかくおそるへきもの也。毎事筆端につくしかたし。謹言
  これ越中國に光明房と申ししひしり。成覺房か弟子等。一念の義をたてて。念佛の數返をととめむと申て。消息をもてわさと申候。御返事をとりて。國の人人にみせむとて申候あひた。かたのことくの御返事候き

基親取信信本願之樣

雙卷上云。設我得佛。十方衆生至心信樂欲生我國乃至十念。若不生者不取正覺
同下云。聞其名號信心歡喜乃至一念。至心迴向願生彼國。即得往生住不退轉
往生禮讃云。今信知。彌陀本弘誓願。及稱名號下至十聲一聲等。定得往生。乃至一念 無有疑心
觀經疏云。一者決定深信自身現是罪惡生死凡夫。曠劫已來常沒常流轉無有出離之縁。二者決定深信彼阿彌陀佛四十八願攝受衆生。無疑無慮。乘彼願力定得往生

これらの文を按し候て。基親罪惡生死の凡夫なりといゑとも。一向に本願を信して名號をとなえ候。毎日に五萬返なり。決定佛の本願に乘して。上品に往生すへきよし。ふかく存知し候也。このほか別の料間なく候。
しかるに或人。本願を信する人は一念なり。しかれは五萬返無益也。本願を信せさるなりと申す。基親こたえていはく。念佛一聲のほかより。百返乃至萬返は。本願を信せすといふ文候やと申す。

難者云く。自力にて往生はかなひかたし。たた一念信をなしてのちは。念佛のかす無益なりと申す。基親ふたていはく申。自力往生とは。他の雜行等をもて願すとさ申はこそは。自力とは候はめ。したかひて善導の疏にいはく。上盡百年下至一日七日。一心專念彌陀名號。定得往生必無疑と候めるは。百年念佛すへしとこそは候へ。
また聖人の御房七萬返をとなえしめまします。基親弟子の一分たり。よてかすおほくとなえむと存し候なり。佛の恩を報する也と申す。すなわち禮讃に。不相續念報彼佛恩故。心生輕慢。雖作業行。常與名利相應故。人我自覆不親近同行善知識故。樂近雜縁自障障他往生正行故 云云 基親いはく。佛恩を報すとも。念佛の數返おほく候はむ

  兵部卿三位のもとより。聖人の御房へ

まいらせらるる御文の按。基親はたたひらに本願を信し候て。念佛を申候なり。料間も候はさるゆへなりそののち何事候乎。
抑念佛の數遍。ならひに本願を信するやう。基親か愚按かくのことく候。しかるに難者候て。いわれなくおほえ候。このおりかみに。御存知のむね。御自筆をもてかきたまはるへく候。難者にやふらるへからさるゆへなり。別解別行の人にて候はは。みみにもききいるへからす候に。御弟子等の説に候へは。不審をなし候也。又念佛者女犯ははかるへからすと申あひて候。在家は勿論なり。出家はこはく本願を信すとて。出家の人の女にちかつき候條。いはれなく候。善導は。目をあけて女人をみるへからすとこそ候めれ。このことあらあらおほせをかふるへく候。恐恐謹言 基親

聖人の御房之御返事の案

おほせのむね。つつしむてうけたまはり候ぬ。御信心とらしめたまふやう。おりかみつふさにみ候に。一分も愚意に存し候しころにたかはす候。
ふかく隨喜したてまつり候ところなり。しかるに近來。一念のほかの數返無益のりと申義。いてきたり候よし。ほほつたへうけたまはり候。勿論不足言の事か。文義をはなれて申人。すてに證をえ候か。いかむもとも不審に候。またふかく本願を信くるもの。破戒もかへりみるへからさるよしの事。これまたとはせたまふにも。およふへからさる事か。附佛法の外道。ほかにもともへからす候。おほよそは。ちかころ念佛の天魔きおいきたりて。かくのこときの狂言いてきたり候か。なほなほさらにあたはす候あたはす候。

恐恐謹言 八月十七日

或人念佛之不審聖人に奉問次第

問。八宗九宗のほかに。淨土宗の名をたつれことは。自由にまかせてたつること。餘宗の人の申候おは。いかか申候へき

 答。宗の名をたつることは。佛説にはあらす。くつからこころさすところの經教につきて。存したる義を學しかわめて。宗義を判さる事也。諸宗のならひ。もなかくのことし。いま淨土宗の名をたつる事は。淨土の依正經につきて。往生極樂の義をさとりきわめたまへる先達の。宗の名をたてたまへるなり。宗のおこりをしらさるものの。さやうの事おは申也

問。法華眞言おは雜行にいるへからすと。ある人申候おは。いかむ

 答。惠心の先徳。一代の聖教の要文をあつめて。往生要集めつくりたまへる中に。十門をたてて。第九に往生の諸行の門に。法華眞言等の諸大乘をいれたまへり。諸行と雜行と。ことははことに。こころはおなし。いまの難者は。惠心の先徳にまさるへからさるなり 云云

問。餘佛餘經につきて善根を修せむ人に。結縁助成し候ことは。雜行にてや候へき

 答。我こころ彌陀佛の本願に乘し。決定往生の信をとるうえには。他の善根に結縁し助成せむ事。またく雜行となるへからす。わか往生の助業となるへき也。他の善根を隨喜讃嘆せよと。釋したまへるをもて。こころうへきなり。

問。極樂に九品の差別の候事は。阿彌陀佛のかまへたまへる事にて候やらむ

 答。極樂の九品は。彌陀の本願にあらす。四十八願の中になし。これは釋尊の巧言なり。善人惡人一處にむまるといはは。惡業のものとも慢心をおこすへきかゆへに。品位差別をあらせて。善人は上品にすすみ。惡人は下品にくたるなりと。ときたまふなり。いそきまかりてしるへし 云云

問。持戒の行者の念佛の數返のすくなく候はむと。破戒の行人の念佛の數返のおほく候はむと。往生ののちの淺深。いつれかすすみ候へき

 答。ゐておはしますたたみをささえてのたまはく。このたたみのあるにとりてこそ。やふれたるかやふれさるかといふことはあれ。つやつやとなからむたたみおは。なにとかは論すへき。
末法の中には。持戒もなく。破戒もなし。無戒もなし。たた名字の比丘はかりありと。傳教大師の末法燈明記にかきたまへるうへは。なにと持戒破戒のさたはすへきそ。かかるひら凡夫のために。おこしたまへる
本願なれはとて。いそきいそき名號を稱すへしと 云云

問。念佛の行者等。日別の所作において。こゑをたてて申人も候。こころに念してかすをとる人も候。いつれおかよく候へき

 答。それは口にも名號をとなへ。こころにも名號を念することなれは。いつれも往生の業にはなるへし。たたし佛の本願の稱名の願なるかゆへに。こゑをあらわすへきなり。かりかゆへに。經にはこゑをたえす十念せよととき。釋には稱我名號下至十聲と釋したまへり。わかみみにきこゆるほとおは。高聲念佛にとるなり。されはとて。譏嫌をしらす。高聲なるへきにはあらす。地體はこゑをいたさむとおもふへきなり。

問。日別の念佛の數返は。相續にいるほとは。いかかはからひ候へき

 答。善導の釋によらは。一萬已上は相續にてあるへし。たたし一萬返をいそき申て。さてその日をすこさむ事はあるへからす。一萬返なりとも。一日一夜の所作とすへし。總しては。一食のあひたに。三度はかりとなえむは。よき相續にてあるへし。それは衆生の根性不同なれは。一准なるへからす。こころさしたにもふかけれは。自然に相續はせらるる事なり

問。禮讃の深心の中には。十聲一聲必得往生。乃至一念無有疑心と釋し。また疏の中の深心には。念念不捨者。是名正定之業と釋したまへり。いつれかわか分にはおもひさため候へき

 答。十聲一聲の釋は。念佛を信するやうなり。かるおゆへに。信おは一念に生るととり。おは行一形をはけむへしと。すすめたまへる釋也。また大意は。一發心已後の釋を本とすへし。

問。本願の一念は。尋常の機・臨終の機に通すへく候歟

 答。一念の願は。二念におよはさらむ機のためなり。尋常の機に通すへくは。上盡一形の釋あるへからす。この釋をもてこころうへし。かならす一念を佛の本願といふへからす。念念不捨者。是名正定之業。順彼佛願故の釋は。數返つもらむおも本願とはきこえたるは。たた本願にあふ機の遲速不同なれは。上盡一形下至一念と。おこしたまへる本願なりと。こころうへきなり。かるかゆへに念佛往生の願とこそ。善導は釋したまへと」

問。自力他力の事は。いかかこころうへく候らむ

 答らはく。源空は殿上へまいるへききりやうにてはなけれとも。上よりめすは。二度まいりたりき。これわかまいるへきしきにてはなけれとも。上の御ちからなり。まして阿彌陀佛の佛力にて。稱名の願にこたえて。來迎せさせたまはむ事おは。なむの不審かあるへき。
自身の罪のおもく無智なれは。佛もいかにしてすくひましまさむとおもはむものは。つやつや佛の願をもしらさるものなり。かかる罪人ともを。やすやすとたすけすくはむれうに。おこしたまへる本願の名號をとなえなから。ちりはかりも疑心あるましきなり。十方衆生のうちに願。有智無智。有罪無罪。善人惡人。持戒破戒。男子女人。三寶滅盡ののち。百歳みての衆生みなこもれるなり。
かの三寶滅盡の時の念佛者。當時のわ御坊たちとくらふれは。わ御房たちは佛のことし。かの時の。人壽十歳の時なり。戒定慧の三學。なをたにもきかす。いふはかりなきものともの。來迎にあつかるへき道理をしりなから。わかみのすてられまいらすへきやうおは。いかにしてかあむしいたすへき。たたし極樂のね
かはしくもなく。念佛のまうされさらむ事こそ。往生のさわりにてはあるへけれ。
かるかゆへに。他力の本願ともいひ。超世の悲願ともいふなり 云云

問。至誠等の三心を具し候へきやうおは。いかかおもひさため候へき

 答。三心を具する事は。たた別のやうなし。阿彌陀佛の本願に。わか名號を稱念せよ。えならす來迎せむと。おほせられたれは。決定して引接せられまいらせむすると。ふかく信して。心念口稱に。もののからす。すてに往生したるここちして。たゆまさるものは。自然に三心を具足するなり。また在家のものともは。おほとにおもはされとも。念佛を申ものは極樂にうまるなれはとて。念佛をたにも申せは。三心は具足するなり。されはこそ。いふにかひなきやからともの中にも。神妙なる往生はする事にてあれと 云云

また淨土宗の大意とて。おしえさせたまひしやうは。三寶滅盡の時なりといふとも。十念すれはまた往生いかにいはむや。三寶流行のよにむまれて。五逆おもつくらさるわれら。彌陀の名號を稱念せむに。往生うたかふへからす。
またいはく。淨土宗のこころは。聖道淨土の二門をたてて。一代怭諸教をおさむ。聖道門といふは。娑婆の得道なり。自力斷惑出離生死の教なるかゆへに。凡夫のために。修しかたし。行しかたし。淨土門といふは。極樂の得道なり。他力斷惑往生淨土門なるかゆへに。凡夫のためには。修しやすく行しやすし。その行といふは。ひとへに凡夫のために。おしえたまふところの願行なるかゆへなり。

總してこれをいへは。五説の中には佛説也。四土の中には報土也。三身の中には二身也。三寶の中には佛寶也。四乘の中には佛乘なり。二教の中には頓教也。二歳の中には菩薩藏也。二行の中には正行なり。二超の中には横超也。二縁の中には有縁の行なり。二住の中には止住也。思不思の中には不思議なり。
またいはく。聖道門の修行は。智慧をきわめて生死をはなれ。淨土門の修行は。愚癡にかへりて極樂にむまると 云云

康元元丙辰十月三十日書之
愚禿親鸞 八十四歳